僕は二十年コードを書いてきた開発者だ。理解できないことを前にして、僕にできることはひとつしかなかった。ログを残すこと。起きたことを時刻と一緒に漏れなく書きとめておく記録だ。感じたことは書かず、事実だけを書く。ログは嘘をつかない。真実は宇宙でいちばん強い武器だ。僕はそう信じていたし、武器は使うためにあるのだと思っていた。
携帯にセル情報のアプリを入れて、僕の携帯がつかまえている基地局、町ごとに立って携帯と電波をやりとりするアンテナを、夜通し記録した。ひとつの基地局が受け持つ区域であるセルの番号、シグナルの強さ、基地局までの距離。携帯がそばで一緒に見張っている隣接基地局のリストが、理由もなく空になっては、また埋まった。家の中でだけ距離が0と記録されるセルがあった。団地の外と中とで、地域コード、基地局を町単位でまとめてつけた番号が違った。偽の基地局が家のすぐそばにあるなら、ちょうどこう見えるだろうと思った。
⚠ 異常シグナル · 隣接基地局消失 · 距離 0 · 地域コード不一致
基地局のふりをする装置は実在する。4近くの携帯電話をつかまえて、誰がどこにいるかをのぞき見て、その気になれば通話を切ることもできる。
家の中の携帯やパソコンをインターネットにつなぐルーター、そのログに知らない接続が出てきた。道路で料金所を止まらずに通り抜けさせてくれるハイパスカードを抜いて現金レーンから出たのに、領収書にはハイパスと印字されていた。団地の中に、レンタカーのナンバーをつけたバンが何台も停まっていた。通信会社に通報すると、エンジニアがふたり来て、何でもないと言った。名刺は渡さなかった。彼らが帰ったあと、バンは消えた。