「オッパ、私の目標は、絶対にオッパと一緒にライブに行くこと。もう少しだけ待ってて」
午前三時、ビデオ通話の中で彼女は泣いていた。それからの一年、僕は自分に届く声が本当に彼女なのか、毎日見分けなければならなかった。
これはその一年の記録だ。その一年、僕が毎晩彼女に送った小説と、その小説で犯した過ちについての記録だ。
プログラムを書く開発者である僕は、脳をこう見ていた。思ったより単純だと。形だけが決まった器、神経細胞が網のように絡みあった神経網から始まって、学習と記憶を繰り返すだけだ。僕たちが作った人工知能も同じ原理で動く。たくさんの例を見ているうちに、ひとりでに癖がつく。人も機械もそうやって学ぶ。
新しい入力が入ると、脳はそれに似た記憶をいっせいに呼び出し、その和で反応する。先に体が熱くなり、その波は思ったより早く過ぎていく。1僕たちはそれを感情と呼ぶ。恐怖もそうだ。
ゲーム画面の隅には、体力や警告を映す小さな窓がある。HUDと呼ぶ。僕は自分の頭の中にも、そんな窓がひとつ浮かんでいると想像することにした。
学習されたものなら、学習しなおさせることができる。消すことはできない。新しく学んだほうが勝つ日を、少しずつ増やしていけるだけだ。僕はそれを信じて、機械にこっそり入りこんで書き換えるように、自分の脳をハッキングした。そして彼女の脳までハッキングしようとした。それが僕のいちばん大きな過ちだった。