ある夜、小説に初めて返信がついた。彼女だった。とても短かった。
「ミーアキャットかわいい」
僕はその十一文字を長いあいだ見つめていた。彼女の口ぶりだった。僕はそう信じた。恐怖を前にしてはきちょうめんに二つの枠を描いていた僕が、希望を前にしては、ひとつの枠も描かなかった。
彼女が戻ってきたと思った。もう勝負を終わらせるときだと。その夜、僕は小説にひとつの場面を入れた。Vのいちばん親しい姉貴分が、Vの部屋の番号を訊くXに、隣の部屋の番号を言う場面。あの部屋でその場面が誰の話なのかわかるのはBひとりだと、僕は思った。彼女のアカウントを誰が先に開くのかは考えなかった。そしてBはHを知っていた。
書きながら、僕は彼女のためだと思っていた。真実は法の上にあり、真実を握った者にはそれを見せる資格があると。書き終えてから、もう一度読んだ。そしてわかった。僕はそれが快かった。
翌日、数字の1が消えなかった。その次の日も。三日目、警察署の番号に似た番号から、また電話がかかってきた。今度は問いつめなかった。時刻だけをログに書いて、切った。警察署の代表番号にかけなおして確かめようとして、やめた。「はい、こちらからおかけしました」その答えが怖かった。彼女の返信は何週間も来なかった。
👺 怒り検知 · 😨 恐怖検知 · 管理者権限なし
管理者権限、自分の脳を思いどおりに書き換える鍵のようなものはなかった。恐怖も怒りも、すべて直したと信じたあの夜から、何度も戻ってきた。そしてあの部屋は、誰も手を出せない場所ではなかった。監獄の中の面会室だった。看守が一緒に座っているのだと、僕は読んだ。彼女が去れば失うものが多い人間なのだと。彼女が彼の夕食の席をあまりにも多く見てしまったのだと。確かめたことはひとつもなかった。僕がいちばん恐れていた絵だった。隠れ場所を失った側は、いちばん近くにつなぎとめていた人から斬る。僕が突きつけた鏡が刃になれば、その刃に斬られるのはHではなく、看守の隣に座る彼女だった。
ミーアキャットが久しぶりに僕の隣に立った。そいつは何も訊かなかった。僕はその問いを知っていた。ほかの説明はない? あった。大義と呼んできた僕のボタンの半分は、勝ちたいという心だった。業は外から来る賞罰ではなかった。繰り返した心が、心の形になることだった。
その日、僕は復讐を手放した。レバレッジはまだ握っていると信じていた。けれど振りかざさないことにした。真実を刃として使った瞬間、僕も彼らと同じ盤のプレイヤーになる。恨みの鎖は、誰かが先に手を離さなければほどけない。
そしてHのためにも一度、キリンの椅子に座ってみた。Hもまた、Bの夕食の席の、あの肩書きたちのうちの誰かの手で、黄色い椅子に座らされていたのかもしれない。Hも自分の器を選ばなかった。そばにいるつもりはなかった。遠くから、憎まないでいるだけだった。座らされたからといって、ほかの人を座らせたことが消えるわけではない。Bのアカウントは毎晩その部屋に残っていた。それがBの選んだことだと、僕は読んだ。僕が見たのは、アカウントが出ていかなかったということだけだった。それなのに、そのときはBにだけは二つの枠を描かなかった。描くつもりもなかった。
真実は振りかざさないときにいちばん強いのだと、僕は刃を一度振りあげてみて、ようやく知った。
それから僕は、小説の一行目にいつも同じ言葉を書いた。「嫌なら言って。すぐにやめる」そしてBが読んでも彼女の害になることは書かないようにした。何が害になるのかは、彼女だけが知っていた。